【究極の弱者男性漫画!】『漫画ルポ 中年童貞』を読んだ感想

 2016年に出版された『漫画ルポ 中年童貞』は、今でいう弱者男性にスポットを当てた怪作である。

 本書に出てくる中年童貞は、スペックが低すぎて恋愛どころではない男性と、政治的信条なとのこだわりが強かったりプライドの高さゆえか自分の存在性に悩みすぎて他者と繋がれない高学歴男性に大別される。

『漫画ルポ 中年童貞』を読んで考えたこと

 ただの「非モテ」ならまだ改善の余地はある。しかし本書に登場する中年童貞たちの様相は病理的である。ある者は職場いじめをし、ある者は女性嫌いを拗らせミソジニー化し、またある者は自らに取り返しのつかない最悪の決断をしてしまった。

 本書を読んで感じたのは総じてコミュニケーション能力のアンバランスさである。おそらく幼少期から、人として健全な形で周囲から受け入れられた経験が少ないのだろう。

 ここで原作者の中村氏の言葉を引用する。

性の問題は個人の自由だが「中年童貞」の問題はそれを超えて語られるべき事案だ

 人との繋がりは、もはや個人の努力だけでどうにかできるものではなくなっている。社会課題の一つとして語られる程度に複雑化している問題である。しかし、社会がこれら問題をなんとか消化して彼らを歓待したとて、この問題は解決するのだろうか。私は至極難しいと考えている。なぜなら彼らの病理は根本的に人から受け入れられる経験の乏しさからきていると考えるからだ。おそらく、専門家から根気強く心理的なサポートを受けたり、面倒を承知で家族と再度愛着を結ぶ努力をすれば良い方向に向かうのではないか。

 人は個人として社会と繋がらなくてはならないが、それは人によってはとても怖いことだろう。ある人は没個性な自分を受け入れなければならない。ある人は親から愛されなかった過去を受け入れなければならない。人と繋がるためにある程度コストが必要だったり複雑すぎるといった現代社会の構造、社会がどうあれ、人とつながるには個人として乗り越えなければならないことがある、それがこの問題を複雑化させていると考えた。

 しかし希望はある。このような作品が世に出るほど成熟した社会に我々は生きているということである。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です